Ryosuke’s Paper in Chem. Sci. / 磯貝くんの論文が Chem. Sci. 誌に公開されました

Ryosuke’s Paper in Chem. Sci. / 磯貝くんの論文が Chem. Sci. 誌に公開されました

Modular Synthesis of Benzothiophene-Fused Pentalene Reveals Substituent-Dependent Antiaromaticity
R. Isogai, K. Yasui, A. Fukazawa*
Chem. Sci. 202617, 3005–3011.
DOI: 10.1039/D5SC09325B
Highlighted in Front Cover
(originally posted on ChemRxiv DOI: 10.26434/chemrxiv-2025-58vnd)

2025年11月末に ChemRxiv にて発表した多環縮環式ペンタレンの実践的合成法の開発に関する論文が Chemical Science 誌に受理されました。

反芳香族化合物は,4n 個の π 電子が環状に非局在化することで,狭い HOMO–LUMO ギャップや酸化還元活性,三重項状態のエネルギーの低さなど,同程度の分子量をもつ芳香族化合物では実現し難い特徴的な物性をもちます。中でも,ペンタレンは 4n π 環状電子系の中でも比較的歪みが小さく,高い平面性をもつため,代表的な反芳香族炭化水素の一つとして盛んに研究されてきました。これまで当グループでは,このペンタレンに,フェナントレン [1] やチオフェン [2] などの芳香族性の低い環を縮環させることで,高い安定性と強い反芳香族性を両立できることを明らかにしてきました。これらの分子設計は,光・電子機能性材料への応用を指向する上で魅力的な基盤でありつつも,合成の難しさがさらなる研究展開を阻んできました。

このような背景のもと本研究では,連続した縮環構造を合成の終盤で形成するのではなく,合成の早期に脂環式骨格をもちいて構築し,酸化度を高めていくというアプローチに注目しました。具体的には,既に文献既知の脂環式化合物であるビシクロ[3.3.0]オクタン-2,6-ジオンを出発原料に用い,両端にベンゾチオフェン環を縮環させたあと,中央のビシクロ[3.3.0]オクタジエン骨格を段階的に官能基化することで,ベンゾチオフェンを縮環部位にもつペンタレンの効率的な合成法を確立することができました。この合成法の最大の利点の一つは,合成の終盤でペンタレンの 1,4 位に所望の有機基を導入できることにあります。これにより,電子求引性や電子供与性の置換基をもつ誘導体を系統的に合成することで,置換基の電子効果が反芳香族性に影響を与えることを明らかにしました。置換基の電子効果に基づいて反芳香族性がチューニング可能であることは,今後の分子設計に有用な知見を与えるものです。

本研究は,磯貝くんが安井孝介 特定助教(当時,現・大阪大学 助教)協力してスタートさせました。当初は,同様の合成戦略に基づき,より合成が容易なビシクロ[3.3.0]オクタン-3,7-ジオン(通称:Weiss ジケトン)を用いて研究に着手しましたが,その反応性制御の難しさに直面しました [3]。安井博士が当研究室から巣立った後も,磯貝くん自身が主体性をもって本当に粘り強く取り組みました。徹底的な条件検討と注意深い結果の洞察により,さながら非天然物の全合成を進めるがごとく工程数の短縮やスケールアップを達成し,ついには合成法の確立に至りました。そんな磯貝くんの努力の結晶の論文を,ぜひご覧ください。オープンアクセスです!

参考文献 / References

  1. H. Oshima, A. Fukazawa, S. Yamaguchi, Facile Synthesis of Polycyclic Pentalenes with Enhanced Hückel Antiaromaticity, Angew. Chem. Int. Ed. 201756, 3270–3274. [DOI: 10.1002/anie.201611344]
  2. J. Usuba, M. Hayakawa, S. Yamaguchi, A. Fukazawa, Dithieno[a,e]pentalenes: Highly Antiaromatic Yet Stable π-Electron Systems without Bulky SubstituentsChem. Eur. J. 202127, 1638–1647. [DOI: 10.1002/chem.202004244]
  3. K. Yasui, R. Isogai, A. Fukazawa, Synthesis and Reactivity of Weiss Diketone Derivative Bearing Four Phenylsulfanyl Groups, Eur. J. Org. Chem. 2022, 43, e202201029. [DOI: 10.1002/ejoc.202201029]